元労基(労働基準監督官)が考える「ブラック企業」の定義

そろそろ、「ブラック企業」を定義しよう

ブラック企業という言葉が世に広まり久しいですが、実はブラック企業という言葉は、国や何かしらの権威によって、明確に定義されたものではありません。ですので、現状では、人により会社により、ここの会社はブラックだ、いやブラックじゃないというように、見解が異なっています。

しかし、まず何がブラック企業かが、みんなの頭の中で大体一致していないと、その先、例えば働き方の仕組みを作り変える時などに不便が生じます。議論の前提というやつですね。

そこで、ニート、フリーター、派遣社員、正社員、国家公務員、これらすべての立場を経験し、労働基準監督官として、実際に企業に指導を行ってきた僕が、大変僭越ながら、「ブラック企業」を定義させて頂きたいと思います。

ブラック企業とは、従業員を人間扱いしない企業のことである。

いきなりですが、これが結論です。法律用語的には労働者とする方が適していると思いますが、ここでは広く、従業員としました。

人間扱いしないとは?

企業の経営にはヒト・モノ・カネが必要であると言われています。そのうち、ヒトは人材のことを指しますが、人は当然ながらモノではありません。しかし、会社によっては、人のことをモノのように扱っていることがあります。

モノのように扱うとは?

モノは、文句を言いません。そこに置かれれば置かれ、動かされれば動きます。そういうものです。

また、人とモノの間にはコミュニケーションが生じません。人間関係という言葉はあっても、人物関係という言葉は聞いたことがありません。ボールペンやパソコンなど、心を持たないものがモノです。

一方で、人には心があります。何かを言われれば、そこに感情が生まれます。会社は、従業員に命令をしますので、その時必ず感情が生まれます。

つまり、人をモノのように扱うとは、「人を、心を持たないものとして扱う」ということです。

人間は心を持たないモノでしょうか?違いますよね。ですので、人をモノ扱いすることは、「人間扱いしない」ということになります。

企業は基本的にはブラックである

人をモノのように扱うという意味では、企業には元々そういう性質があります。ヒト・モノ・カネを使って、利益を得るために活動するのが企業ですので、必然的にヒトは使われます。現代の日本企業と国家や自治体のほとんどは官僚制によって運営されているので、上から下に命令するという行為が生まれます。

しかし、人が人に一方的に命令するというのは、どう考えても人間的じゃありませんよね?

企業はその前提からして、ブラックなところがあるのです。

ブラックにならないような社会的仕組みがある

でも、命令を受けても、心理的に納得できる状況というのもあります。それによって給料がもらえたり、なんらかの保障が受けられたり、といった場合です。

その納得できるラインを、事前に取り決めておきます。給料はいくらで、働く時間は何時間で、休みはいつでといったようなことが、口頭や書面で決められます。これが労働契約です。

また、ブラックな労働条件や労働環境を、企業が労働者に課すことがないように、労働基準法等の法律があり、日本国民はそれを守る義務があります。法律を実行するための役所もあり、主に労働基準監督官がその役割を果たしています。

それなのに、なんでブラック企業があるの?

このような仕組みがありながらも、残念ながら、従業員を人間扱いしない=ブラック企業は多数存在しています。

それには2つの理由があります。

理由1 労働契約や法律が守られていない

残業代を支払わないのは違法です。

また、事前に取り決めた約束事、例えば研修を受けて資格を取ったら手当が付く約束だったのに、なかったことにされるなど、企業側の一方的な都合で守られないなど、労働契約が守られないこともあります。

こういった違法行為や契約違反が、日本では非常に多くなっています。

違法行為を取り締まるための労働基準監督官も、先進国基準からすると、圧倒的に人数が不足していると言われています。

理由2 新しい雇用環境上の問題が生じてきた

特に大きいと考えらえる原因は、経営環境の変化です。経済が右肩上がり成長していく時代は終わり、需要は飽和していると言われています。

成長時代には、官僚型の組織で、上意下達で命令を伝達していくことが、効率のよい経営の方法でした。

しかし、この方法は現代では通用しなくなってきています。そこで、しわ寄せが来るのは、下にいる、立場の弱い従業員です。

そこでは、例えばパワハラやセクハラ、経営責任を負わされる、詐欺的な仕事を強要されるなど、非人間的な行為が行われています。

これらにより、メンタルヘルスに問題を抱える労働者が増加したり、はたまたブラック企業そのものが存続の危機に直面し、計画倒産を行うなど、社会的な問題が生じています。

終わりに ~社会からブラック企業を減らしていこう~

古くは、産業革命の頃よりブラック企業は存在していました。当時のイギリスでは少年少女が、1日20時間労働の労働を強いられていたといいます。

日本でも、企業活動により、多くの人が労働災害に遭い、障害を負ったり、命を落としてきた歴史があります。最近でも、電通の過労死事件など、センセーショナルな事件が起こっています。

しかし、その都度、人々は制度を変え、働き方を変え、労働環境を改善してきました。

日本国には労働安全衛生法(通称:安衛法)という法律があります。この法律には労災の歴史が刻まれていると言われています。

安衛法を条文と共に解説した、安衛法便覧という本があるのですが、この本は広辞苑のような大きな辞書ほどの厚みがあり、これが3冊つづりになっています。つまり、今まで膨大な労働災害が生まれ、それによって制度が整えられてきたことを、この本は意味しています。

現代に起こっている「ブラック企業」の問題も、一朝一夕にとはいかないでしょうが、人々の努力によって、必ず解決できるものだと考えています。